DAシンポジウム 2018
特別企画
招待講演(8月29日(水)午後)
人工知能をクリティカルアプリケーションに適用するために
金川 信康 様(日立製作所)
第2次AI(人工知能)ブーム中に提案された「ニューラルネットワーク」を発展させた「ディープ・ラーニング」(深層学習)の研究が起爆剤となり、現在再びAIの研究が活発に進められており、第3次AIブームと呼ばれている。ディープ・ラーニングを初めとする人工知能は人知を超えた最適解を提供してくれるが、その安全性は必ずしも保証されたものではない。そこで人工知能の動作の安全性を検証、保証する技術を付加することにより、人知を超えた安心・安全な最適解を得られるようにしようとする講演者らの取り組みを紹介する。
招待講演(8月29日(水)午後)
グラフ構造を用いたリソグラフィホットスポット検出
新田 泉 様(富士通研究所)
リソグラフィ工程における欠陥箇所(リソグラフィホットスポット)予測に機械学習を適用した事例を紹介する。回路パターンをグラフ構造で表現し、グラフカーネルを用いた学習により、欠陥要因となる局所的なパターンの認識精度を向上した。また、近年、機械学習適用においては判断結果だけでなく、その根拠をユーザにわかりやすく示すことが課題となっている。提案手法では、予測対象のパターンと類似するパターンを過去データから提示することで、現場エンジニアが結果の妥当性を容易に確認できるような仕組みを提供した。
特別セッション(8月30日(木)午前)
ディペンダブルコンピューティング
ゼロDPPMに向けた設計およびテスト手法
新井雅之(日本大学)
車載用半導体デバイスの製造に際しては、ゼロDPPM、すなわち100万個あたりの欠陥デバイス数1個以下という非常に高い信頼度を達成しつつ、従来品と同等レベルのコストに抑えることが要求される。本稿では、半導体テストの観点からのゼロDPPMに向けた取り組みについて述べる。まず、統計的手法や機械学習に基づく種々の欠陥選別法について紹介する。次に、著者らの最近の取り組みとして、ブリッジ・オープン故障の発生確率を考慮した故障カバレージおよびDPPMの見積法と、効率的なテストパターン生成法について紹介する。実験結果から、従来の論理的な故障モデルに基づく故障カバレージを用いた場合と比較して、DPPMを1桁削減可能であることを示す。
高電磁ノイズに対する故障モデルと対策例
福本聡(首都大学東京)
スマートグリッド、ソーラーパネル、電気自動車などの急激な普及拡大に伴って、電力変換回路のパルス大電流部分が引き起こす近傍電磁界ノイズが問題となっている。本稿では、こうした高電磁ノイズを新たな故障モデルとして捉え、ディペンダブルコンピューティングの手法によって高信頼化を試みる研究を紹介する。具体的には、高電磁ノイズがもたらす周期的な同時多重過渡故障への耐性を強化した高信頼化プロセッサ方式について述べる。本方式は、変換回路のスイッチングに同期して発生する過渡ノイズの影響期間を組み込み自己テスト(BIST)によって測定し、ノイズの発生期間中のクロック供給を意図的に停止して過渡故障を回避するものである。
機能安全要求のためのテスト容易化設計法
高橋寛(愛媛大学)
先進自動運転の実現のためには車載コンピュータの機能安全を保証するテストが必要である。本稿では、まず、組込み自己テストに基づくパワーオンセルフテストにおいて、機能安全要求を考慮して実行する際の課題を整理する。次に、故障検出強化フリップフロップによる中間観測を導入したマルチサイクルテスト法に関して説明する。ここでは、故障検出強化フリップフロップの構成および故障検出強化フリップフロップに置き換えるフリップフロップの選択法を述べる。最後に、提案した手法をベンチマーク回路に適用した評価実験結果を述べる。評価実験結果から短いテスト時間で機能安全要求を満たしたテストを実行できることを明らかにする。
招待講演(8月30日(木)午後)
量子コンピュータの仕組みとハードウェア・ソフトウェア
北川 勝浩 先生(大阪大学)
量子コンピュータは、1994年に素因数分解の量子アルゴリズムが発見されてから、基礎研究が行われてきたが、実現不可能な絵空事とみなされてきた。ところが、IBM、Googleなどが参入し、既に数十量子ビットの小規模の量子コンピュータがクラウド上で使えるようになっている。一方、大規模な量子コンピュータの実現には、量子誤り耐性のあるアーキテクチャが必須であり、長くて険しい道のりが予想される。そこで、量子コンピュータの原理と仕組みを解説し、そのハードウェアとソフトウェアを紹介して、将来を展望する。
招待講演(8月31日(金)午前)
ハードウェアセキュリティと人工物メトリクス
松本 勉 先生(横浜国立大学)
本格的なIoT時代に向けて、モノの個体のセキュアな管理をはじめとするハードウェアセキュリティの重要性が高まっている。モノを物理的に計測し活用する人工物メトリクスと、関連する ハードウェアセキュリティの最先端研究につき展望する。
特別セッション(8月31日(金)午後)
ハードウェアセキュリティ
最先端暗号のハードウェア実装
〇藤本大介、坂本純一、奥秋陽太、吉田直樹、松本勉(横浜国立大)
サイバーフィジカルシステムやクラウド活用の進展に伴い、公開鍵証明書を用いずにIDを公開鍵として暗号通信が行える、多数のディジタル署名を集約して伝送し一括検証が行える、暗号化したままデータ検索が行えるなど、従来の公開鍵暗号技術より機能性を高めた高機能暗号技術への期待が高まっている。高い機能性の代償として計算は複雑となる傾向があるため、高機能暗号の高速実装、低消費エネルギー実装にはハードウェアが有用である。本発表では、高機能暗号を含む最先端暗号のハードウェア実装技術について述べる。
レーザー故障注入攻撃対策を備えた暗号ICの設計手法
〇松田航平(神戸大)、藤井達哉、庄司奈津、菅原健、崎山一男(電気通信大)、林優一(奈良先端大)、永田真、三浦典之(神戸大)
本稿では、レーザー故障注入攻撃対策を備えた暗号ICの設計手法を提案する。シリコン基板へのレーザー照射に伴い、基板内部において異常な過渡電流が発生することが知られている。この過渡電流を検知するための小面積基板電流センサを分散配置した暗号コア回路の設計手法を提案する。また、攻撃検知後の対策手法として、暗号コアへの電源供給路に挿入する電源瞬断回路による内部データ消去手法についても提案を行う。本稿では、提案手法の有効性を確認するため、180nm CMOSプロセスにおいてテストチップを試作し、無対策暗号コアと比較し+28%の面積オーバヘッドで攻撃を無効化可能であることを確認した。
Arbiter PUFに対する攻撃手法に関する一考察
〇八代理紗、菅原健、崎山一男(電気通信大)
ICチップの真正性の確認に有効とされる技術にPhysical Unclonable Function (PUF)がある。PUFは、製造時に意図せずに生まれる物理的特徴を利用し、個体ごとに異なるID情報をデバイスに付与する技術である。PUFの1種にArbiter PUFが存在する。Arbiter PUFは配線遅延、ゲート遅延を基に固有のID情報を出力するPUFである。Arbiter PUFに対する攻撃手法に、機械学習を用いて、挙動を模倣したクローンを作製する手法が一般的に知られている。最新の研究ではDeep Learningを用いることにより、攻撃性能が向上したという報告もある。本論文では、理論的に各攻撃手法の限界について議論する。